2012年2月12日日曜日

乱読のすすめ44-ポピュリズム ってなに?


   いまから七年くらい前でしょうか。テレビ朝日の「朝まで生テレビ」に出演したとき、私が「小泉さんの構造改革で苦しめられている人びとが、小泉さんを支持しているのは不思議だ」と発言したら、司会の田原総一郎氏が「あなたは、国民がバカだといいたいのか」と突っ込んできました。変ないい方をする人だなとおもいながら、 「 国民が改革の本質を知らされていない、ということだ」と応えました。
   事実、その二、三年後には、「構造改革」の本質が知れわたり、国民から猛反発を受けることになり、小泉さんは、政権を安倍さんに譲るかたちで、批判の矢面から逃げ出してしまいました。 
   ただ、田原氏がいった「国民がバカだといいたいのか」という言葉には、ずっと引っ掛かるものがありました。それはポピュリズムとはなにかを、問いかけるものだったからです。

   ポピュリズムとは、人気とり政策、大衆迎合政治、パフォーマンス重視などをひっくるめた政治姿勢のことで、本来の民主主義に害悪をもたらすものと捉えられてきました。マスコミも政治家の多くも、そういう傾向を好ましくないものとし、見下す傾向がありました。しかし一方で、小泉純一郎、石原慎太郎、橋下徹氏などが「ポピュリスト」と呼ばれてきた政治家、知事が大きな力をふるってきたのも事実です。










   仮に「大衆迎合」「人気とり」と切って捨てたところで、それでポピュリズムが一掃されるわけではありません。ポピュリズムを否定して事足れりとするのは、ポピュリズムの本質が何なのかを探求することを拒否することになり、その結果、もっと危険なポピュリズムを呼び寄せてしまうかもしれない。ファシズムの問題とあわせて、ポピュリズムについても私たちは真剣に考える必要があるのではないでしょうか。










  政治学者、吉田徹さんの「ポピュリズムを考える」(NHKブックス)は、従来の人物評伝的なポピュリズム解説ではなく、歴史的、哲学的な考察によってポピュリズムの本質に迫ろうとする野心作です。
   「政治は私たちの思う通りにあって欲しい。しかし、政治には私たちの進むべき道を示して欲しい。実はこの矛盾した欲求のなかに、ポピュリズムは生起するのである」
   「民主主義という政治制度の基盤が「人民主権」にあるのだとすれば、ポピュリズムが生じ、ポピュリストが出てくるのは当然ということにはならないだろうか」
   「現代ポピュリズムはネオ・リベラリズム(新自由主義)とともに生れた…有権者はなぜわざわざ自分を痛めつける改革者を支持することになるのか。この『ネオ・リベラリズム型ポピュリズム』支持の鍵となるのが『豊かな中間層』と『無党派』の存在である」
   「現代ポピュリズムの三つの特徴(世界共通)は、①企業的発想に基づく政治(新自由主義)、②物語の政治(ストーリーテラー)、③敵づくりの政治、にある」
   「政治から見放されていると感じる人びとは、改革にともなう『痛み』が大きければ大きいほど、それだけ多くの現状打破が実現されるような錯覚をすることになる。大規模な改革を行うためには、強力なリーダーが必要であり…こうして、ポピュリズムとネオ・リベラリズムの共犯関係が成立していったのである」

…吉田さんの主張がすべてその通りとはおもいませんが、ポピュリズムについてこれだけ深く考えさせられた本は初めて。ポピュリズムは、たんに人間の卑近な面を扇動するだけのものではない。良きにつけ悪しきにつけ、民主主義を構成する一部分なのだ…民主主義とはなにか、ちょっと深めてみたいという方におすすめの本です。