2013年2月3日日曜日

乱読のすすめ75-コレキヨの恋文



小学館













   経済評論家の三橋貴明さんが面白い経済小説を刊行しました。
   現代の新米女性首相が昭和初期の大蔵大臣、高橋是清から、時空をこえて経済問題について指導を受けるというお話です。
   高橋是清のように「大胆な金融緩和」を今こそやるべきという論調には賛成しかねますが、現下のデフレ経済の解説書としてはわかりやすい。

   昭和初期、大蔵大臣だった高橋是清は、世界恐慌の混乱でデフレ不況に苦しんでいた日本経済にたいし、つぎつぎと対策を打ち出しました。「金輸出の解禁」停止、平価切下げをおこない円安へ誘導。さらに日銀の国債引き受けによる政府支出(軍事予算)の増額など「積極財政」をすすめました。その結果、日本の経済成長率は、1931年の0.4%から、34年の8.7%へ回復します。
   しかし経済の過熱を見てとった高橋は、軍事予算の縮小など緊縮財政にかじを切ろうとしたため、軍部の恨みを買い、2・26事件で暗殺されました。

   この数年、自民党や民主党の一部議員が、高橋是清を褒めたたえながら、(高橋是清のときのように)「日銀は国債を引き受けろ」、「引き受けなければ総裁はクビだ」と、執拗に日銀を脅しつづけてきました。財政規律にたいする認識がないだけでなく、歴史への見識もない、困った人たちです。

東洋経済新報社










  そんななか、2011年3月25日 参議院の財政金融委員会で、わたしと白川方明日銀総裁のあいだで、高橋是清について以下のようなやりとりがありました(議事録抜粋)。

   ◎大門実紀史君
   昨日から日銀の国債引受けが議論になっております。…振り返れば、日銀に国債を引き受けさせろという話は、もうこの十年来絶えず出てきている話で、速水さん(元日銀総裁)のときからあった話でございます。何かあるたびに日銀に国債を買えという圧力がずっとありまして、その都度私は日銀に圧力に屈すべきではないということを一貫して申し上げてまいりましたけれども、日銀は迫られて迫られて、結局今六十兆円も国債を持っているわけですね。…場合によっては、日銀法を変えて日銀に言うことを聞かせようとする議員連盟もあるわけで、とんでもないことだと思っております。
 (今日も高橋是清の名前をあげた議員がいるが)高橋是清の話もよく分かっておっしゃっているのかどうかと思うんだけれども、高橋是清というのはものすごい財政規律論者でございました。だからこそ二・二六で命を奪われたわけです、軍部に。要するに、あのときは大恐慌がありまして景気対策をやらなきゃいけないと、しかし市中に引き受ける力がないから日銀に国債を引き受けさせた。そして、当時は公共事業といっても軍需産業が最大の公共事業ですから軍事費を拡大するという形になった。…高橋是清は一定、景気が回復したところで、やはり国債をこれ以上どんどん発行するのはまずい、歯止めを掛けなければいけない…そういうことを言って軍部から反発を買って命を奪われた。財政規律を守るために高橋是清は命を奪われたわけでございます。高橋是清が殺されたものですから、どんどんどんどん国債が発行されて、軍事費が膨脹して、戦争に突入して日本を破滅させたと、こういう流れになるわけですから、高橋是清から学ぶべきは、命懸けで財政規律を守ったということだと私は思っているわけです。

◎参考人(日銀総裁、白川方明君) 
 …高橋財政でございますけれども、これも議員御指摘のとおり、この教訓について、あるいは事実そのものについても必ずしも十分に理解が行き渡っているというふうには思いません。
 高橋財政について、これはいろんな側面がございますけれども、日本銀行が国債を引き受けたということがよく指摘されるわけでございます。ただ、あのとき、高橋財政下の日本銀行は、引き受けた国債を直ちにこれ市場に対して売却をしているわけでございます。つまり、国債を瞬間的にはもちろん日本銀行が持つわけですけれども、しかし、これは市場に売却しました。したがいまして、高橋財政直後、日本銀行の国債保有が大きく増えたということではこれはございません。
 それから、当時、じゃなぜそういう方法を取ったかといいますと、これは民間で国債の市場が十分に発達していなかった、したがってそういう方法を取ったわけでございます。この点、現在、日本の国債市場はこれは非常に発達した市場がございます。これだけの危機にもかかわらず、震災発生後も国債はこれは円滑に消化をされています。これだけの国債を発行する経済だからこそ国債が安定的に発行できるという、ここのインフラをしっかり維持することが大事だと。その点につきまして、これは国民、それから内外の市場参加者がその点についてしっかりと、疑念を持つことなく日本銀行の政策姿勢、それから政府の政策姿勢ということを理解していく、これが大事でございます。…そういう意味で、高橋財政については、先ほど先生がおっしゃったような歴史の教訓というものをしっかり受け止めて対応する必要があるというふうに考えております。