2013年3月28日木曜日

乱読のすすめ80-なぜ福島にロボットを送れなかったか


マービン・ミンスキー・MIT教授










   1979年、アメリカのスリーマイル島で原子力発電所事故が起きたとき、高い放射線量のため、誰も修復作業のために中に入ることができないという事態となりました。
   その翌年ひとりの科学者が、原発事故の現場など人間が立ち入ることができない場所で作業を行うため、リモコン操作で動かせるロボットを開発すべきだと提唱しました。「人口知能の父」とよばれる米国マサチューセッツ工科大学(MIT)のマービン・ミンスキーさんでした。
   しかし、それから31年もあとに起きた東電福島第一原発事故ですが、事故現場に有効に対応できるようなロボットは開発されていませんでした。











   現在、福島第1原発では調査や廃炉に向けた作業に一応、遠隔操作のロボットを使用していますが、階段で転んだり、装置が動かなくなるなど、ひんぱんにトラブルを起こしています。
   東電も「原子炉建屋内における多様な作業においては、ロボット等の遠隔技術の開発・適用が必須となる」(廃止に向けた工程表)としています。

NHK新書「知の逆転」
  









    この30年、ロボット開発はどこを向いていたのか。
     『知の逆転』(NHK出版新書)のなかで、ミンスキー教授はつぎのようにのべておられます。
   「ロボットに工学に関しては、30年前にその進歩はほとんど止まってしまって、その後はもっぱらエンターテイメントに走ってしまったように見受けられる」
   「ホンダをはじめ色々な会社が、見栄えがいいロボットを作ってきたが、そういうのは笑ったり動いたりするだけで、実際には何もできない。原子力発電所の問題解決にはどれも何の役にも立たない」」
   「チェスに勝つとかより、なぜ、ドアを開けるというような、もっと現実的な問題解決型のロボットを作ろうとしなかったのか」

 『知の逆転』は、ミンスキー教授だけでなく、ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックス、 トム・レイトン、ジェームズ・ワトソンという現代最高の知性といわれる方々のインタビューをまとめたもの。知的刺激を受けたい人におすすめです。